2009年 11月 20日

最大のヤマ場
それは両親のことであった。
当時、僕は公団に住んでいて
犬を飼うことはできなかった。
となれば
戸建である実家へ連れて行くしかなく
それを当て込んでいた。
しかし家にはすでに犬と猫がいたし
そもそもそれまでの犬にしろ猫にしろ
僕が拾ったり買ったりしたことが
来歴の大半を占めていた。
父も母も動物好きではあったが
すでに老齢の域に達しており
この上さらに面倒を見てもらうことは
さすがに気が咎めずにはおれなかった。
といったところで今さら後には戻れない。
さて、どうしようか…
膝の上で眠る犬に目を遣りながら
どう頼み説得すればよいかと
走りながらあれこれ考えてみたものの
妙案が浮かばないまま
とうとう大阪へ着いてしまった。
インターを下りると
ひとまず自宅へ戻り風呂を沸かした。
せめて印象を良くしようと
シャンプーで体を洗い
体を乾かし綿棒を使って耳を掃除する。
ああしかし、母は僕と同じで
感情の起伏が激しく
わけが分からないところがある。
もしも頑として拒んだらどうしよう
などとあれこれ想像しながら暗澹となり
犬を前に小学生に戻ったような気分でいた。
しかし、いつまでもこうしているわけには行かない。
明日は仕事に出る。
部屋に閉じ込めたりすれば
またもキャンキャンとわめくに違いなく
近所の住人に知れるだろう。
そうなったらコトだ。
意を決し再び車に犬を乗せ実家へ向かう。
家に着いてみると
父は庭で鉢植えの手入れをし
母は夕飯の支度をしていた。
子犬をそっと裏庭へ放すとすぐに
柴犬と猫が見つけ
近寄って興味深そうにニオイを嗅いだ。
父と母はまだ気づいていない。
勝手口の上がり框に腰掛け
犬が捨てられていたことを話すと
話し終わらないうちに
アカンで、そんなん拾てきたら
と、先を制された。
母はそれ以上何も言わず
流しに向かったまま手を動かしていた。
これまでだ。
今日の母の機嫌と性格を考えれば
これ以上話したところでどうにもならない。
では犬はどうしよう。
誰か引き取り手を捜さねばならない。
だが、せっかく苦労して連れてきたのだ。
ひと目見てもらいたい。
オカン、実はな
連れて帰ったんや
そう言うや台所の床に犬を置いた。
母は飛び上がって驚いた。
ちょっと、あんた! もう!
なんで拾ろて帰るのん!
悲鳴のような大声で叫び
飛び出してしまうかと思うほど目を剥いた。
だが、その後の反応は
まったく予想しないものであった。
そんな突然の大声にもかかわらず
犬は母の足元に走り寄り
顔を見上げてシッポを精一杯
ちぎれそうになるほど振った。
ちょっと…!
いやぁっ…かわいらしい!
見てごらん
こんなにシッポ振ってやるやないの
おお、そうかそうか、よしよし
動物に、ましてや子犬に
自らの立場など理解できるはずはないが
一発で母をノックアウトしたこの場面を思い出すたび
それを本能的に感じていたのではないかと
思ってしまうのである。
(つづく)










